長崎新聞 平成28年<2016年>6月26日


違い認め合う「土徳」
世界遺産 私の視点
県宗教者懇話会長 神崎正弘さん

長崎新聞掲載


私の寺は長崎市緑町にあり、禁教期にキリスト教の信仰を守り続けてきた浦上に近い。 中学の先生に「浦上でもお寺をやるならキリスト教の勉強をした方がいい」と勧められ、カトリック高の長崎南山に進学した。 神父を目指す神学生の同級生と机を並べて切磋琢磨した。 聖書や公教要理も勉強した。仏教とキリスト教を比較対照し、自分の信仰を深く見詰めることができた。 今でも神父さんたちとは仲良くしているし、何の違和感もない。法衣を着て協会にも行けば讃美歌も歌う。

県宗教者懇話会は宗教や宗派の壁を越えて交流し、被爆地長崎から平和を祈ろうと1974年に発足した。 仏教、神道、キリスト教の伝統宗教だけでなく、金光教、天理教、念法眞教、立正佼成会、PL教の 諸宗教も参加している。海外の宗教者を訪問すると、「なぜ仲良くできるのか」と驚かれることも多い。

そんな時は「長崎の土徳(どとく)です」と答える。長崎の宗教史は、いわば地と汗と涙の結晶だ。
キリシタンの殉難はよく知られているが、それ以前にはキリシタンによって仏教や神道が迫害されたこともあった。ただ、それを今言っても仕方ない。 そのような苦渋の歴史を繰り返すことがないように平和を祈る。信じる宗教は違うが、そんな思いが懇話会の会員に共通している。

「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」が世界文化遺産いなるのは良いことだ。地域が活性化するし、 人がたくさん来て経済も良くなるだろう。ただ、宗教者として、心配なのは、教会で祭礼があっているときに、単に観光気分でやって来られることだ。真の「観光」とは心の目で光を見ること。どんな宗教であれ、そこを忘れてほしくない。

血と汗と涙の歴史があったからこそ、私たち宗教者が共に生き、共に和し、共に話すことを実践していきたい。 私はよく「A(アッラー)、B(ブッダ)、C(キリスト)アンドK(神)、祝福あれ」とあいさつする。 建物や信仰もさることながら、違いを認め合おうとする長崎の土徳が、世界遺産であってほしいと願っている。(松尾 潤)

<略歴>
1941年大阪市生まれ。48年、長崎に移住。大谷大卒。
87年、県宗教者懇話会に加入。
同会専務理事を経て、2016年1月第4代会長に就任。
真宗大谷派法生寺(ほっしょうじ)住職。